「返報性」の例10選 – 『影響力の武器』を解説

YESを引き出すための5つテクニックが紹介されている『影響力の武器』という本をご存知でしょうか。

商品販売にもつながるテクニックとして、広告業界ではよく知られた一冊であり、メンタリストのDaiGoさんにも大きな影響を与えたみたいです。

5つのテクニックを1つずつ丁寧に噛み砕いてご説明していきます。感覚的にも理解できるよう、身近にある「返報性のルール」も10個リストアップしてみました。

返報性のルールとは?3つのポイント

ポイント1:返さなければ、義務感・不快感に襲われる

返報性のルールとは、他人から何かを与えられたら、同じようなやり方で相手にお返しをしたくなる人間の心理のことです。

お返しをせずに受け取るばかりだと、持続的な人間関係を築けず孤立し、社会で生きていく上で不利になることを、人は幼いころから教育や経験により叩き込まれていきます。

そのため、何かをプレゼントしてもらうと、お返しをすべきという義務感が生まれ、お返ししないという選択は不快感すら伴います。

地球上のすべての人間社会ではこのルールが採用されているという研究もあり、人間の本質に関わる心理作用と言えるでしょう。

ポイント2:YESを引き出すための強力な手段

返報性のルールは、寄付集めやセールスなど、相手から承認を引き出すために広く活用(悪用)されています。

一輪の花をプレゼントしてから寄付のお願いをすると成功率が高まったり、缶コーヒーをプレゼントしてから商品を売り込むと成功率が高まったりします。政治家への献金によって、自分に有利な法律制定を促す行為もこのルールに基づいています。

一方、テクニックとしてだけでなく、本来あるべき美しい返報性のルールもあります。たとえば、地域Aが災害に襲われ、その際に地域Bの支援を受けた場合、次に地域Bで災害が起きると、地域Aは復興に全面協力するといった事例は多く存在しています。

ポイント3:応用例が「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」

返報性のルールに基づいた、有名なテクニックに「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」があります。『影響力の武器』の中では、「拒否させたら譲歩」法とも呼ばれていました。

このテクニックは、最初に相手が受け入れられないような大きな要求をし、その要求を相手が拒否した後に、より小さな要求をすることでYESを引き出すというものです。

「譲歩する」というGiveをすることで、返報性のルールが発動します。

本の中で挙げられていた事例では、拘束時間が1日のボランティアを頼む際に、ただ単にお願いしたグループと、最初に2年間のボランティアを要求し、その後に本来のお願いをしたグループでは、後者の方が成功率が高くなったそうです。

身近な「返報性のルール」例10選

『影響力の武器』は海外の文献のため、事例にあまりピンと来ないこともあります。

そこで、現代日本で見られる返報性のルールを挙げていきます。

1:試食コーナー

試食販売のイラスト「試食を配る店員さん」

スーパーでの試食は、返報性のルールを生かした典型的な販売方法です。

子どもが試食したら意味ないのでは?

子どもの試食により、親にもお返し(購入)の義務感が生じるため、意味があります。

2:赤い羽根共同募金

赤い羽のイラスト

日本の代表的な募金活動です。

赤い羽根という、冷静に考えると原価が1円あるの?というプレゼントであっても、なんとなくお返ししたくなるものです。

3:SNSの「いいね」

SNSが表示されたスマートフォンのイラスト(写真型)

自分の投稿に誰が「いいね」をしてくれたか、意外と覚えているものですよね。

「いいね」をしてくれた相手の投稿なら、「いいね」を返さないとという義務感が生まれます。

同様に、フォロワー数を増やすための定番のテクニックとして、まずはフォローし、相手のフォローバックを促したりもします。

4:店員が高いスーツを勧めてくる

「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」の一例です。

こういうスーツを探しています、とスーツ屋の店員に言うと、おすすめのスーツを持ってきてくれますが、最初は大体高価なものだったりします。

次にもう少し安いスーツを提案されると、多少高くても「買います」と言ってしまいがちです。

5:家電量販店での値切り

電卓を見せる家電量販店の店員のイラスト(男性1)

「他店よりも1円でも高ければ教えてください」と宣言する所もあるくらい、家電屋さんでは値切るという行為は一般的です。

ただ、値切ろうとする時点で相手のペースに入っているとも言え、店員が「上司に相談してきます」と言って奮闘しているのを見ると、恩義を感じて買わざるを得ない心境になります。

6:Amazonの1ヶ月無料

いわゆる「フリー戦略」も、返報性のルールをと関係があります。

Amazonでは、AmazonプライムやKindle Unlimited、Audibleなどで1ヶ月無料サービスを行っています。

無料体験しているときは、解約のことで頭がいっぱいになり、実際に一旦は解約したりするのですが、やはり無料体験の間にAmazonという会社との結びつきは確実に強まっており、恩義も蓄積されています。

数ヶ月してから無料体験したサービスを実際に契約することも私はあります。

7:無料レンタルからのレビュー

レビュアーのイラスト(女性5)

モニターキャンペーンなどで、「無料で商品を1ヶ月貸し出す代わりに、レビューをサイトに登録してね」という座組みが使われることはよくあります。

人の心理として、無料で使ったものを悪く言うのはなかなか難しく、好意的なレビューを書くことになり、商品の良い口コミが形成されていきます。

8:上司がご飯代をおごる

伝統的な返報性のルールです。

1000円の昼ご飯であっても、おごってもらった後輩は恩義を感じ、「上司への忠誠」という形で報いることになります。

1000円を給料として銀行に振り込むよりも、Giveを実感しやすいこともポイントでしょう。

9:電通マンの「ボールペン使います?」

広告代理店の営業スタッフは「気配りの鬼」であることが求められます。

電通の営業は、顧客がメモを取ろうとしてペンを忘れたことを察すると、大袈裟すぎない安物のボールペンを「2本あるので1本どうぞ」と言ってプレゼントし、顧客に小さな貸しを作るといいます。

10:職場への差し入れ

おみやげのイラスト

よくある、「旅行に行ってきたのでお土産を置いときますね」です。

仕事上でも尊重されやすくなると言われます。

まとめ

著者が「些細なことによる効果が、常に些細であるとは限らない」と述べているとおり、

小さなGiveが、家や車の購入、職業選択、結婚パートナーの選択などの大きな決断に影響をおよぼすこともあります。

広告制作者としても消費者としても、この心理作用は頭に入れておいた方がよいでしょう。