あのアディダス(adidas)が2021年末より、NFTを活用したキャンペーン「Into The Metaverse」を本格始動させました。
超人気NFTコレクションのBAYCと手を組み、クリプト・メタバース界隈で大きな話題に。マーケティング関係者からの評価も高いキャンペーンです。内容をしっかり理解して、自身の企画提案にも活かしましょう。
この記事ではキャンペーンの概要と私が考える成功のためのポイントをまとめました。
目次
「Into The Metaverse」キャンペーンとは?
adidas Originalsのグローバル(=本社)が主導した、NFTを販売し、それをコミュニティ形成や商品販売にもつなげる施策です。
告知開始は2021年12月2日、NFT販売は同年12月18日でした(いずれも日本時間)。
adidas社員のErika Sneyd-Wykesさんによると、今回のキャンペーンは「マネタイズが目的ではなく、もっとも勢いのあるコミュニティを知るため」「われわれには何ができるのかを、信頼できるパートナーとともに学んでいきたい」とのこと出典。実験としての意味合いが強かったようです。
パートナー
今回は、adidas独自のキャラクターやイラストをNFT化した訳ではありません。
既存のNFTコミュニティで確固たる地位を確立した「gmoney」「Bored Ape Yacht Club」「PUNKS Comic」というコレクションとの“コラボ”という形を取っています。
パートナー3者の中で最もサプライズだったのがBored Ape Yacht Club、通称BAYCです。BAYCはサルをモチーフとしたNFTアートを代表するコレクションで、最も安い作品でも現在は2,000万円以上の値段が付いています。
adidas社員はまずgmoneyとPUNKS Comicにコンタクトを取り、そこから大御所のBAYCとのコラボに発展したそうです。
NFT発行量・期間

※内20,000個はadidas Original POAPなどの保有者(既存コミュニティ)向け、9,620個は一般向け、380個は今後のためのストックで販売せず。
価格:0.2ETH(7万円程度)
通常のBAYCコレクションでは1デザインにつき1保有者となっていますが、Into The Metaverseでは同じデザインのNFTを最大3万人が保有することができます。
発行量を減らした方が投資が過熱して価格が上がりやすくなるため、1デザイン1保有者とするのが通常の方法ですが、今回のキャンペーンでは「メタバース世界へのチケット」「コミュニティ参加者の目印」として役割が強いとみられ、発行数量を増やしています。
価格は7万円程度で、既存のNFT投資家だけでなく、一般ユーザーにも無理ではない価格設定となっています。※実際にはガス代で+8万円くらいかかったようです。
目的・狙い(マーケ視点)
マーケティングの視点から、今回のキャンペーンの狙いを分析します。
パイオニアとしてのブランディング
メタバース、Web3といった新領域への進出は、「チャレンジャー精神」「技術力の高さ」といったブランドイメージを醸成することに役立つと考えられます。
adidasのタグライン”Impossible is nothing””「不可能」なんて、ありえない。”ともリンクする行動でした。
adidasのスニーカー販売プラットフォーム「CONFIRMEDアプリ」では、今回のキャンペーンを次のように説明しています。
「不可能」なんて、ありえない。そう信じる人々は、気づくと不思議な道の場所に辿り着く。僕らには未開の文明など、もはや存在しない。でも今、降り立ったのは無限の可能性を秘めた世界。クリエイティブのフロンティア、メタバース。
CONFIRMEDアプリ
CONFIRMEDアプリの利用促進

キャンペーンへの参加にはCONFIRMEDアプリのインストールが必須な構造となっており、Into The MetaverseはCONFIRMEDアプリのプロモーションにもなっています。
たとえばPOAPを取得するため、NFT購入後に特典を受け取るためにCONFIRMEDアプリが必要になります。
OpenSeaのようなWeb3プラットフォームでは顧客の個人情報を得ることはできませんが、アプリというWeb2プラットフォームを活用することで、NFT購入者をリスト化し囲い込んでいます。
ポイント1:用意周到なティザー
マーケティング関係者から評価されていた点は、期待感をあおるティザーの上手さです。キャンペーンを時系列で見ていきましょう。
キャンペーンのタイムライン
※すべて日本時間です。
ティザーフェイズ
私が確認できた範囲で、最も古いメタバース関連のツイートは11月18日のPOAP配布でした。POAPの取得メリットは当時は秘密にされていましたが、その後NFTを販売する際に、POAP保有者には先行購入権が与えられました。
アディダスが情報を小出しにする度にウェブメディアが取り上げており、口コミでも徐々に広がりを見せていました。レアスニーカー販売と同様のティザー手法がうまく機能したと言えるでしょう。
11月23日:The Sandbox内でadidasの土地が出現することが予告される(メタバース本格参入を予感させる)
11月29日:BAYCがInstagramでティザー
12月2日・PM11時:意味深な予告
12月3日・AM1時:ティザービデオ公開
12月3日・AM1時:Twitterプロフ画像をNFTに変更
12月17日・AM4時:「明日からドロップ開始」
販売フェイズ
先行販売ではガス代を払うだけで、NFTが受け取れないトラブルが発生しましたが、3時間ほどで復旧しました。
先行販売の5時間後に一般販売がスタート。即完・秒殺であり、ほとんどの人が購入を逃しました。ちなみに関口メンディーさんは運良く購入できたみたいです。
NFTが完売したことで、adidasは約26億円の売上を作り出しました。
ポイント2:SNS拡散を促す仕掛け
今回のキャンペーンでは、BAYCのアバターに服を着せるApe Closetというツールも活用されました。
BAYCの番号を入力し、着せたいadidasウェアの種類とカラーを選択すると、服を着たアバターが表示されます。
adidasはキャンペーン特設サイトにて、#tracksuitupforadidas を付けて、服を着たBAYCをSNSで拡散するよう呼びかけており、実際にハッシュタグで検索するとTwitterで30件くらいがヒットします。
正直、この機能はそこまでバズった訳ではなさそうですが、現実の服をNFTアバターに着せるというアイデアは今後も至るところで現実化していくでしょう。

NFTアートとスニーカーは似ている
NFTアートとスニーカーは構造が似ており、アディダスのようなスニーカーブランド、ファッションブランドは、NFTのマーケティングも上手だろうなと思いました。
両者の共通点は下記の通りです。
共通点1:若者がメインターゲット
NFTもスニーカーも若者からの支持を得ることで、将来性のある旬のブランドとして認識されます。
アディダスやナイキなどのスニーカーブランドは、その時代で最もイケているアーティストやアスリート、デザイナーとコラボし、若者からの支持を得てきました。
共通点2:実益以上の価値を創造する
数十万という値段が付くプレミアスニーカーを見ればわかるように、スニーカーは履いて足を保護する以上の+アルファの価値を提供しています。
+アルファの価値はたとえば「高額商品を身につけていると見栄が張れる」「イケてるグループに所属した気持ちになれる」「コレクションすることが楽しい」などです。
これはNFTにもまったく同じことが言えます。
NFTアートというデジタルデータの実益は0に近いですが、所有が可能になることで、大きな喜びをもたらしてくれます。
共通点3:供給のコントロールが生命線
NFTもスニーカーでも、売れ残りがあるという状態は購入意欲を大きく減退させます。需要が多くても、それ以上を供給すると、希少性が薄れて価格は下がります。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回のInto The Metaverseキャンペーンは、NFT販売で約26億円を稼ぎながら、同時にコミュニティ形成やアプリのインストールなどにもつながる「稼ぎながら愛される」画期的なキャンペーンです。
アパレルブランドのマーケティングを担当されている方は、メタバース関連のニュースは注視して、自分たちの企画に活かしていきましょう。